山桜の格子

 当室の入口に新しく、山桜の格子の衝立が設置されました。これまで入口から相談の場所が見えていたのですが、適度な仕切りができたことで、より落ち着いてお話をうかがえるようになりました。伝統工法の物づくりをされている職人さん方が、丁寧に造ってくださいました。

 ところで、格子で思い出されるのは三重県関宿の家並みでしょうか。日本には古くから格子の文化があり、例えば東海道の町屋では、格子の美しい家が軒を連ねています。西欧のものとは異なり、日本の建築空間は内と外の空間を曖昧に分けていたとのこと。外から内は見えないけれど、内から外は見え、外とのつながりが保たれています。そんな外とのほどよい距離感が、古くからの日本の家にはあるのかもしれません。
 それは、日本人のもつ、人や社会との心の距離の持ち方や、しなやかさ、よい意味での曖昧性にも通じていることかもしれませんね。
 
 さて、当室のこの格子、設置により、入口から相談の場所がほぼ見えなくなりました。一方、隙間のため、内からは入口付近が格子越しに少し見えています。広くはない場所で、完全に空間が閉じられると心理的な圧迫感がありますが、仕切られていても向こう側や扉の外がほどよく感じられる曖昧性が良いようで、空間に落ち着きが生まれたように思います。
 また、山桜は木材としても美しく、温かみのある感じとなり、その形になんだかほっとさせられます。 

 心と空間には密接な関係があり、心理療法における「空間」についても様々な観点から研究が行われています。
 来談者の方のお話をうかがう際、丁寧に耳を傾ける姿勢はもちろんのこと、落ち着いてお話いただける場所となるよう、これからも努めていければと思っています。